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湯谷温泉郷の旅館「はづ木」で過ごす、特別なひと時

「おかえりなさい」をききに

ミシュランガイド東海版にも掲載されている女性に人気のお宿「はづ木」。
暖簾をくぐるとまず目に入るのが、角が際立った美しい八角錐の盛り塩と玄関を彩る季節の花々。清涼な空気と落ち着きのあるたたずまいに、早くも心がほぐれます。引き戸を開けると「おかえりなさいませ!」となんとも気持ちのいいお出迎え。無双窓や舟底天井、五七桐紋の欄間など、随所に意匠の凝らされた木造数寄屋造りの一軒家は、昭和初期に建てられたもの。初来訪にもかかわらず「ただいま」と言いたくなるような安心感に包まれます。

【写真】はづ木ロビー

まずは目の前のロビーでチェックイン。眼下に流れる宇連川は、板を敷き詰めたような平らな川底から「板敷川」と呼ばれています。清流のせせらぎ、鳥のさえずりをBGMに、解毒や利尿に効果のある蓮の葉と緑豆のブレンド茶と、老化防止に効果的なサンザシのお菓子をいただきます。
今回は昼食プラン(昼食+温泉)を体験。食事の時間は12:00(スタート)~13:00ですが、館内が利用可能な11:00~14:30であれば、お風呂とお食事どちらが先でもよいとのこと。また、時間内であれば、食前・食後と2度の入浴も可能だそうです!お風呂はヒノキの露天風呂と内湯の2種。いずれも源泉かけ流しで、通常は男女入替制。ただ、この日は女性客のみだったため、両方利用できるとのこと。ラッキー! さっそく露天風呂へ。

【写真】はづ木 露天風呂

湯谷温泉は、鳳来寺を開山した利修仙人によって発見された1300年の歴史をもつ名湯です。源泉「鳳液泉」は万病に効くとされ、日本ロック界の大御所、忌野清志郎さんが闘病中に足繁く通ったのも納得。玄関同様、お風呂の脇にも季節の花が飾られ、人の手を介して切り取られた自然美と、目の前の広大な自然とが、互いに引き立て合うかのよう。洗面所やお手洗いなど、館内の至るところに花が飾られ、細やかな気配りが行き届いているのを感じます。
少し濁りのある淡黄色の温泉は、さらりとしたなめらかな感触。お肌がしっとりと潤い、体の芯まで温まって湯冷めしにくいのが特徴です。お風呂上がりには五穀茶と柚子みつが用意され、ぽかぽかと温まった身体にひんやりドリンクを流し込むことの快感といったら! 特に柚子みつが美味しくて、思わずおかわり(笑)。

【写真】はづ木 漢方薬膳懐石

お次は、楽しみにしていた漢方薬膳懐石料理! 本場の料理人が腕を振るい、貴重な漢方と生薬をあわせて20数種も使用した贅沢なお食事は、11品+α。薬膳料理というと、身体によいイメージがある一方、クセや苦みがあったり、美味くないのでは……と思う人もいるかもしれません。でもご安心を。こちらでいただくお料理は、本物の味をベースに懐石料理の繊細さを融合した、まさに良薬は口に美味し! 1間半かけてゆっくりいただくお食事は、五臓六腑に沁みわたり、幸福感をもたらします。
まず、食前にプーアール茶か紹興酒を選び、クコの実やサルノコシカケなど4種類の漢方に注ぎ入れて、そのエキスごといただきます。効能を聴き、成分が溶けゆく姿を眺め、嗅ぎ、味わう。五感をフル活用していただく食前酒は、エンタメ性があり、これから始まる薬膳料理に胸が高鳴ります。炒め物、蒸し物、煮込み、スープ、ごはんものからデザートまで、一品ずつ食べるスピードに合わせて運ばれてくるお料理は、初めて耳にするもの、口にするものも多く、興味津々! 漢方は、紅花や陳皮、羅漢果など身近なものから、トシシ(滋養強壮・視力回復)、天麻(手足の痺れ・頭痛の緩和)、オウギ(腎機能低下による症状)など、初めて聞くものまでバラエティー豊か。中には、真珠の粉(ダイエット・美肌)など、え~こんなものまで? と思うものも。使われている漢方について、効能の説明を受けてからいただくことで、より効果が高まる気がします(笑)。

【写真】鶏むね肉のスープ

印象的だったのは「鶏むね肉のスープ」。とろみが効いたスープに、髪菜(ファーサイ)というもずくのような食感のモンゴル野草が美味しく、思わず目尻が下がります。他にも、低カロリー・低脂肪・低コレステロールで注目を浴びている「ダチョウ肉」のしょう油煮込みは、クセがなく、とてもやわらか。真珠の粉入りの「卵白と貝柱の炒め物」は、ほろほろとした舌触りで貝柱の旨味がじゅわ~っと。〆は、胃腸炎や高血圧に効果があるとされる白きくらげのデザート。きくらげがデザートに? と思いましたが、葛切りのようななめらかな食感が、甘いシロップにとてもマッチしていました。盛り付けも美しく、エビや魚の形をした珍しい素焼きの器でいただくのも楽しく、目にも舌にも美味しいお料理が、健康増進作用もあるなんて! 中華というと油を多く使うイメージですが、こちらの炒め物はどれもあんかけのようなとろみがあり、油っぽさは皆無。満腹感はあっても、胃への負担はなく、体の内側から満たされる感じがありました。

昼食プラン終了の14:30まで1時間ほどあったので、再びお風呂、今度は内湯へ。露天風呂よりさらに渓谷に近づき、美しく紅葉したモミジを眺めながらの入浴は、至福そのもの。閉じられた空間ゆえのスチーム効果で全身を温泉パックしているよう! 新陳代謝も高まり、デトックス効果も抜群です。

おなかも心も満たされてすっかり満足していると、玄関横の売店で、先ほどウェルカムドリンクでいただいたお茶やお菓子を発見! お食事でいただいた羅漢果のお茶(砂糖の400倍の甘さでカロリーは1/25!)やたんぽぽコーヒーなど、体がよろこぶお土産を購入できます。

【写真】赤い吊り橋「浮石橋」

入浴・食事の後は、赤い吊り橋を目指して周辺散策。徒歩5分ほどで浮石橋に到着し、国指定の天然記念物、馬背岩(うまのせいわ)を見学。馬背岩は、およそ1,500万年前に奥三河地域一帯で起こった大規模な火山活動によって、凝灰岩の割れ目に安山岩質の溶岩が流れ込んでできたもの。

中心を走る階段のよう岩が「馬の背中のタテガミ」のように見えることから、「馬背岩」と呼ばれています。松本清張原作の『市長死す』のロケ地となったり、ミステリー界のレジェンド、辻真先がミステリランキング3冠を獲得した『たかが殺人じゃないか』(東京創元社)の舞台となったり、渓谷・岩・吊り橋の組み合わせは、いかにも物語が生まれそう。

【写真】はづ木 客室

今回は、日帰りプランでしたが、もちろん宿泊プランもあります。はづ木のお部屋は全部で5室、すべて渓谷の景観が楽しめる川沿いにあり、宿泊者は、はづ別館、湯の風HAZUなどグループ店のお風呂にも入れます。
「行ってらっしゃいませ!」と気持ちよくお見送りいただいたとき、今度は宿泊プランで来よう! 温泉のはしごをして、薬膳懐石料理をいただいて、昼寝や読書を楽しんで、小説も書けちゃうかも?(笑)……妄想とともに再訪を誓ったのでした。また「おかえりなさい」の言葉をききに……

コラム by asCa

1976年生まれ、東京都出身。茶道師範。
人と言葉を愛しています。茶道・ダンス・旅行・キャンプが趣味。夫と娘の三人暮らし。

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